伊藤忠商事株式会社

Tricentis Toscaは、伊藤忠商事が25年間利用してきたレガシーSAPからS/4HANA Cloudへの移行を支援

会社概要

1858年創業の伊藤忠商事株式会社(以下、伊藤忠商事)は日本有数の総合商社の1つ。世界61カ国に約90の拠点を置き、繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において国内、輸出入及び三国間取引を行うほか、国内外における事業投資など、幅広いビジネスと展開している。伊藤忠商事は2019年、「デジタル化」「シンプル化」「イノベーション」を3本柱とした海外現地法人、及び一部の海外グループ会社の基幹システム変革の取り組みを開始した。

無秩序に広がったITランドスケープの中で改革を成し遂げることは困難な取り組みだった。ITチームは幾つかの大規模なシステム変更の期間中もビジネスの俊敏性と革新性を維持する必要があった。最も困難な点の1つは、Fit-to-Standardアプローチで、システムを真のテジタルプラットフォームへ転換するために、高度にカスタマイズされたオンプレミスのSAP ERP ECC 6.0からS/4HANA Cloudへの移行が計画された。この変革プロジェクトには、契約、物流、在庫管理、財務管理に至るまで、伊藤忠商事のビジネスのプロセス全体が関わっていた。

伊藤忠商事 IT·デジタル戦略部で、プロジェクトマネージャーとして海外50社の変革を牽引しているITストラテジストの原田修作氏は、プロジェクトの成功に不可欠な領域の1つとして「テスト」を挙げている。SAPトランスフォーメーションイニシアチブの広大な範囲と規模の要件に対応するためには、ほとんど手作業で行われていた既存のプロセスを近代化し、統一する必要があった。

原田氏は語る。「従来のテストでは、2つの点で限界がありました。まず、リソースが問題でした。50社に導入するためのテストを行うには、何年もかかるでしょう。2つ目は、テストの質を標準化することです」。

Tricentis(トライセンティス)が提供するTricentis Toscaを実装する前に、伊藤忠商事のテストチームは120のテストケースからなる標準的な回帰テストスイートを使用しており、それぞれのテストケースは手作業で1.5時間を要していた。各国でテストを行う際にはこのテストセットを複製し、各地域のニーズに合わせて修正していたのだ。この結果、回帰テストに必要な時間は指数関数的に増加し、10人のテスト担当チームではすぐに持続できなくなった。

原田氏は、従来のSAP環境と新しいSAP 環境の両方に対応する、拡張性のある自動化されたソリューションが必要であることを理解していた。「Toscaを選んだのは、SAPとの強い結びつきがあったからです」

伊藤忠商事の10名のテストチームは、Toscaを使用して回帰テストを自動化し、導入フェーズを大幅に加速させ、S/4HANA Cloudで新規ビジネスプロセスと移行されたビジネスプロセスが共に意図通りに動作することを確認した。

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導入前の課題

  • 少人数のテスト担当チームが、主にマニュアルテストに頼っていた。
  • 地理的な複雑性によりテストの負荷が増加。ビジネスプロセス、通貨、税金の違いを考慮する必要があったため。
  • マニュアルでの回帰テストは、各リリースで最低180時間かかっていた(確認レビューの時間を除く)

変革のロードマップ

伊藤忠商事のテスト担当者は既存のテスト生成物をすべてToscaのワークスペースに移行した。その上でオリジナルの回帰テストセットを使って国ごとにカスタマイズした61のテストシナリオを作成。この一般的なテストケースの中ではデータのみを変更させれば良いため、テストは伊藤忠商事全社に適用できた。

また、伊藤忠商事はベトナムに拠点を置くサービスプロバイダーと提携し、SAP Fioriインスタンスのテストの自動化も実現。TricentisのProfessional Services Operations (PSO) チームは、Toscaの設定と構成について両社をガイドし、各ユーザーにトレーニングとコーチングを提供した。さらにTricentisチームはToscaのTest Case DesignとTest Data Service ツールを導入し、ロジックをTest Case Designに入力することでインスタンスを素早く生成し、それらのインスタンスにTest Data Serviceを通じてデータを投入することで、数百のシナリオの自動テストが可能となった。

また、Test Data Serviceを利用することで、テストの保守及び更新が簡素化できた。新しい要件でテストシナリオの変更が必要になった場合、データやロジックを変更するだけで済むことから、伊藤忠商事は大きな成果を挙げることができた。

Toscaの導入により、テストカバレッジは760 %向上し、実行時間は38 %、設定時間は70 %短縮された。全体として、テストにかかる労力を65%削減することができた。

原田氏は語る。「Tricentisから多くのサポートをいただきました。ツールのサポートだけでなく、チーム全体を支えてくれました。今では、以前より楽にリソース管理が可能な上、同じ品質のテストを維持できるようになっています」。

意図を持って移行する

「当初は多くの人が不可能だと思っていました」。原田氏は、伊藤忠商事が行ったS/4HANAへの複雑な移行について語る。「25年間もSAPの活用に悪戦苦闘していました。長い間、伊藤忠商事の進むべき方向について、戦術ではなく、コンセプトを話し合ってきました。1年間かけて、『デジタル化、シンプル化、イノベーション』をテーマに掲げました。そして、いざディテールやシステムが必要になった時には、我々は対応準備ができていました」。

25年間利用したレガシー版SAPからS/4HANA Cloudへの移行は、どのような組織にとっても歴史的な変化。伊藤忠商事は北米10社の海外現地法人・子会社を2社ごとに段階的に移行し、各段階での品質を確保するためのテスト戦略もしっかりと行った。

「導入時の第1波で多くのことを学びましたが、第2波では自分たちのリズムをつかむことができました。ToscaとTricentisの選択は間違っていなかったと思います」と原田氏は語る。

北米拠点へのS/4HANA Cloudへの移行が2021年度までに完了。2022年からは欧州、アフリカ、アジア・大洋州、中近東、東アジアの約40拠点の移行を段階的に進めている。テストイノベーションを構築するためのインフラが整った今、伊藤忠商事のチームはテストケース設計ワークショップを実施し、より一層の品質向上と組織の最も重要なビジネスプロセスへのリスクカバレッジ拡大を図っていく予定だ。